日本の長期金利は緩やかに2.5%程度まで上昇か
- 岡本:
- 長らく低金利政策を継続してきた日本の金融政策に変化の兆しが見え始めています。2022年12月以降、日本銀行は長期金利(日本10年国債利回り)の変動許容幅の上限を徐々に拡大するなど、金融政策の修正を重ね(図表①)、それに伴い長期金利も徐々に上昇してきています。
- 金利と債券価格は、金利が上がれば債券価格は下がり、金利が下がれば債券価格は上がるという“シーソーの関係”にあります。今後の債券投資を考える上で、金利環境の展望は重要なポイントになりますが、今後、日本の金利はどのように推移すると考えられるのでしょうか?
- 津本:
- 10年くらいのスパンで見れば、日本の長期金利は引き続き上昇していく方向にあると考えています。「どこまで上がるか」、「急に上がるのか」というのが投資家の皆様の関心が高いポイントかと思います。
マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社
取締役 債券運用本部長
津本 啓介氏
- 一般的に金利は「経済の鏡」と言われています。そこで、①日本経済の実質的な成長率を示す「実質長期金利」、②期待インフレ率、③リスクプレミアム――の3つのファクターを用いて、名目の長期金利の動向を分析する「フィッシャー方程式」という経済学上の考え方を用いて今後10年程度の長期金利の水準を展望してみましょう。この場合、2.5%程度を上限とし、10年近くの時間をかけてじわじわと金利が上昇していくような動きになることが推定されます。
図表1:2022年12月以降、日銀は金融政策修正を繰り返す
※上記は講演開催時点(2023年11月)の内容です。2024年3月の金融政策決定会合ではマイナス金利政策の解除やYCC(イールドカーブ・コントロール)の撤廃などが決定されました。
出所:各種報道記事、ブルームバーグのデータをもとにマニュライフ・インベストメント・マネジメント作成
信用スプレッドは「縮小」サイクルに突入
マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社
投信営業部 マネジャー
岡本 彩花氏
- 岡本:
- 日本の金利が急激に、かつ大幅な上昇をする可能性は低いとの見方は、円債投資家にとって安心材料になりそうですね。
- ところで、金利と並んで債券価格の将来を占う重要なポイントが「信用スプレッド」ですよね。社債などの債券利回りは、「国債利回り」と「信用スプレッド」の2つに分解できます。例えば、同じ年限の円建て債券であれば、日本国債の利回りはもちろん同水準ですが、信用スプレッドは、発行企業の信用力によって異なり、日々変動し、債券価格に影響を与えています。企業の信用力が向上すれば、信用スプレッドが縮小して債券価格は上昇しますが、信用力が低下すれば、信用スプレッドは拡大し債券価格は下落するという具合です。
- 津本:
- 実は日本企業が発行する社債は、この信用スプレッドの変動が比較的安定している傾向があります。社債を発行して資金調達を行う際には通常「格付け」を取得しますが、それにはコストがかかるため、大部分の企業は銀行からの借り入れを資金調達手段として選択します。したがって、日本の社債市場には安定的に高い格付けを取得できる、信用力の高い大企業が集まりやすい構造ができています。
- 津本:
- 2022年以降に社債市場がグローバルで混乱に見舞われた局面では、国債利回りの上昇に加えて信用スプレッドが拡大したことが、日本の債券市場の下落要因となりました。このとき日本企業の信用力は低下していたのかと考えると、我々はそうではなく当時の信用スプレッドの拡大の要因に「流動性リスクの高まり」があったとみています。
- 当時はインフレ率の高進、そしてロシアのウクライナ侵攻などの影響で、市場の変動性が高くなっていました。そこで、社債投資に対する需要が減少し、債券利回りが上昇する(価格は下落する)環境となりました。
- 岡本:
- 企業の信用力だけでなく、社債市場の需給でも信用スプレッドは変わってきてしまうのですね。では、今後の信用スプレッドの動向はどうなると予想されるのでしょうか?
- 津本:
- これは日本の社債市場に限った話ではありませんが、信用スプレッドは約4年の周期で変動する傾向があると言われています。約1年で急激に信用スプレッドが拡大し、その後3年ほどをかけてゆるやかに縮小していくといったサイクルです。このサイクルが続くとすれば、前回の拡大のピークが2022年2月でしたので、今後は信用スプレッドの縮小局面に入るとみられます(図表②)。
図表2:信用スプレッドの周期的な動き
※上記は説明のために作成したイメージ図です。将来の経済・市場環境の変動等を示唆・保証するものではありません。
出所:マニュライフ・インベストメント・マネジメント作成
- 三浦:
- 津本さんのお話の通り、2022年は債券市場にとって試練の年となり、2023年もほぼ横ばいの状態が続きました。ただ、足元では社債市場に改善の兆しが見え始めていることがお分かりいただけると思います。
- 当社が設定・運用を行う、日本のハイブリッド債券*に投資する「マニュライフ・円ハイブリッド債券インカム・ファンド(3ヵ月決算型)/(年1回決算型)」でも、2022年にはマザーファンドの全保有銘柄が値下がりした(2021年12月末~2022年12月末)一方、2023年には値上がりした銘柄が値下がりした銘柄の数を上回る(2022年12月末~2023年9月末)状況にあり、実際に社債市場の環境悪化が一巡した様子がうかがえます。
- 特にハイブリッド債券にとっては、日本の社債市場の需給が改善傾向にあることが、今後追い風になると期待されています。基本的にハイブリッド債券は相対で取引されるため、需給が悪化する(買い手が少なくなる)と発行体の信用力などから乖離して価格が下落することがありますが、需給が改善する(買い手が増す)ことでより安定した運用が可能となると考えられます。
マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社
投信営業部 営業統括
三浦 洋平氏
- 三浦:
- 債券は着実なインカム収入が期待できることから、コツコツと資産形成する運用スタイルには非常に魅力的な投資先です。当社では、ハイブリッド債券をはじめ、今後も人生100年時代の資産運用を支える運用ソリューションのご提供に努めてまいります。
*ハイブリッド債券とは、債券(負債)と株式(資本)の双方の特徴を有する債券。普通社債と比べて債務の弁済順位が劣るため、格付けが低くなる一方で、利回りは相対的に高くなる傾向がある
上記の個別の銘柄は参考情報であり、当社が特定の有価証券等の取得勧誘や売買推奨を行うものではありません。また、上記の見解・見通しは作成時点における登壇者の見解であり、将来の経済・市場環境の変動等を示唆・保証するものではありません。