ウエルスアドバイザーYouTubeチャンネル かんたんファンド検索 詳細条件でファンドを検索 ファンドの見直し

ファンドニュース

日本株の「バリュー」と「中小型株」に大きな魅力、イーストスプリングの着目点

2024/02/21 18:30

 イーストスプリング・インベストメンツの日本株運用チームは2月に「金融正常化は日本株に好材料」と題したレポートを発表し、「日本市場が今後も強力かつ魅力的なリターンを提供し続けることに楽観視している」と日本株式市場に強気の見通しを打ち出した。特に、これまで市場をけん引してきた「バリュー(割安)株」と、大型株に対して出遅れ感が強い「中小型株」に妙味があるとしている。レポートは同社シンガポール拠点の日本株式運用責任者のIvailo Dikov氏と、クライアント・ポートフォリオ・マネジャーのOliver Lee氏が共同で執筆した。海外の拠点からの日本株式に対する評価は興味深い。

 日本株は2023年に世界の主要株式市場をアウトパフォームし、年間騰落率でTOPIX(東証株価指数)は25%、日経平均株価は28%という上昇を記録し、33年ぶりの株価水準になった。2024年になっても日本株の上昇は続いているが、イーストスプリングの日本株運用チームは、「複数の日本企業のCEOとの対話の中で『価格規律と利益改善が大幅に進んできており、日本企業は新たな局面を迎えている』との印象を持った」と強調する。それは、日銀短観でも日本企業が2023年に入ってから過去20年間のどの時期よりもコスト上昇分を価格に転嫁できるようになったという点を指摘しており、「企業ファンダメンタルズの改善が株価をけん引すると言った近年にはあまり見られなかった『ある意味で正常化した市場環境』が今は見受けられるようになっている」と現状を分析している。

 そして、このような「正常化した市場環境」を支えているのが、日本政府が2013年に打ち出したコーポレートガバナンス(企業統治)の強化、そして、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)など過去10年間にわたる改革、そして、2023年3月に東証が要請した株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回る企業に対し「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」などがあるとする。イーストスプリングでは、東証の要請などについて「日本企業は横並び意識が強いため、この要請に出遅れたと見られることを嫌う多くの企業が、一斉に改善に向けて活発に取り組み始める可能性がある」と期待している。

 この東証の市場改革と企業のコーポレート・ガバナンス改革、そして、それに伴う企業の株主資本利益率(ROE)改善の可能性が「バリュー株に大きな影響を与える」と見通している。企業がROEを改善させることを目的に余剰資金の活用や株式持ち合いの解消などを積極的に実施すれば、これはPBR1倍未満で取引されている企業の株価にはインパクトがある。「複数の大企業が計画を発表しているが、今後は中堅・中小企業にも動きが広がる」と予想している。

 そして、企業が継続的にバランスシートの効率化と長期的な収益性の確保に不可欠な企業改革を推し進めることによって、不採算部門の切り離し、コスト削減とより適切な資本配分による業績見通しの改善が進むとみている。その結果、「最終的にはROE改善によって日本企業への再評価は続くだろう」とする。

 一方、市場では日銀が2024年にマイナス金利政策の解除と長期金利を低く抑え込む長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)を撤廃することを予想し、これによる金利上昇が株価上昇の頭を抑えるとの懸念がある。これに対しては、「マイナス金利政策を解除してもその後の大幅な利上げは想定されておらず、また、YCCを撤廃しても国債の買い入れは継続することが予想され、しばらくは緩和的な金融政策が続くだろう。これは日本企業にとってはポジティブな材料となるだろう。金利の正常化については健全な経済の証とみなされるべきだ」と指摘する。

 日銀の金利正常化への動きに対し、米国は今後は金融緩和に動くことが見込まれ、日米の金利差が縮小し、為替相場が円高に向かうことが見通されるが、「円高は一部の輸出依存型企業には逆風となるかもしれないが、価格上昇とマージン(利幅)改善で相殺できる」とみている。イーストスプリングでは、「ドル円相場の長期平均水準である1ドル=115〜120円を前提に考えても、日本企業の業績トレンドの改善は維持できる」とみている。

 2023年末時点での主要市場のPBRは、日本株は1.4倍の水準にある。株価の上昇によって1.2倍からPBRは水準が上がったものの、欧州株の2.0倍、世界株(先進国+新興国)の2.8倍、米国株の4.5倍と比較すると依然として割安感が強い。また、日本株の株価収益率(PER)の水準は現在、「過去の平均値に近い水準にあり、これにはまだ改革や企業行動の潜在的な変化が織り込まれていない」と分析する。したがって、「日本株には魅力的な収益性の大幅な改善余地がまだ残っているため、バリュー株の投資妙味はまだ終わっていない」としている。

 さらに、「日本の中小型株には現預金を豊富に保有し、改革やリストラ策に前向きな投資妙味のある銘柄が数多くある。特に、小型株は2018年以降、大型株を大幅にアンダーパフォームしており、特にバリュエーション面では大型株に対して歴史的な割安水準にある」と分析している。イーストスプリングでは、ボトムアップ・アプローチによって「改革を取り入れ株主のためにより多くの価値を創造し、自社の得意分野に経営資源を集中する企業に引き続き焦点を当てていく」としている。レポートでは、同社のボトムアップでの調査力が、日本市場で強力で魅力的なリターンを提供し続ける力になると自信を示した。(グラフは、国内株式インデックスをアウトパフォームする『ジャパン中小型厳選バリュー株ファンド』)