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国内株価の最高値更新! 新NISAの投資先選定でも参考にしたいGPIF運用機関が選ぶ優れた統合報告書

2024/02/22 18:06

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2月21日、「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れた統合報告書』と『改善度の高い統合報告書』」を発表した。2018年1月に最初のレポートを発表して以来、毎年、運用機関の評価を集約し、その結果を公表している。「優れた統合報告書」と評価された企業は、ニュースリリース等を通じて「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ優れた統合報告書に選出された」と発表するようになり、企業の間に統合報告書の作成を促す効果も出ていると考えられる。国家戦略としてインベストメント・チェーン全体の質的向上を目指すことをめざす日本で、アセットオーナーの頂点に立つGPIFが率先して統合報告書の重要性をアピールしている。新NISAでは、投資信託とともに上場株式への投資も可能だ。長期に投資できる投資先企業を選定する際に、GPIFの国内株式運用機関の評価は参考になるだろう。

 「統合報告書」は、「有価証券報告書」や「アニュアルレポート(年次報告書)」において公表される定量的な財務情報に加えて、企業理念や社長メッセージなど数値だけではわからない非財務情報をまとめた資料のこと。「財務情報」と「非財務情報」を統合して発表することから「統合報告書」といわれている。「有価証券報告書」などが主に株主や投資家などステークホルダー向けのIR(投資家向け情報)資料と位置付けられることに対し、「統合報告書」は株主、投資家、取引先や金融機関以外にも地域社会や従業員など、より幅広い関係先に向けた情報発信という側面がある。特に、近年では「サステナビリティ(事業の持続可能性)」や「ESG(環境・社会・ガバナンス)」などの非財務情報が重要視されるようになっていることから、「有価証券報告書」のように発行が義務付けられているわけではない「統合報告書」の重要性が増している。

 今回のレポートは、GPIFが国内株式の運用を委託している13運用機関に対し、「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」について、それぞれ最大10社の選定を依頼した。「優れた統合報告書」については延べ70社(前回は67社)、「改善度の高い統合報告書」は延べ100社(前回95社)が選ばれた。この結果についてGPIFでは、「企業規模別で見ると、優れた統合報告書では、相対的に経営リソースが豊富な大型企業が選定の約半数を占めていますが、改善度の高い統合報告書では中小型企業が大半となるなど、統合報告書の作成の広がりと質の向上が伺えます」としている。

 「優れた統合報告書」として最多の6機関から評価を得たのは「伊藤忠商事」だった。伊藤忠商事は、GPIFが発表を開始した2018年から毎年「優れた統合報告書」として評価され、7年連続で選定された。運用機関が評価するポイントは、「企業価値向上に向けたストーリーがわかりやすい」「CEOメッセージも相変わらず迫力ある」「持続可能な価値創造のためのモデルが明確に定義されている」など。

 次に、「日立製作所」が5機関から評価された。日立製作所も7年連続で「優れた統合報告書」に選ばれている。評価のポイントは、「CFOが情報開示WGを統括し企画・制作に全社がコミットしている体制がよく表れている」「事業の成長をもたらす仕組みについての説明が充実」など。そして、同じく5機関から評価されたのが「アサヒグループホールディングス」。6年連続での「優れた統合報告書」に選定された。「インパクトの可視化、人的資本の高度化、TCFDとTNFDの統合的対応など、先進的な取組みがなされている」などと評価された。

 「改善度の高い統合報告書」は、複数機関から選定されたのは2機関からに止まり、評価がばらけている。その理由は、選定企業の規模は、大型企業が24社、中型企業が60社、小型企業が16社と、中小型企業が全体の76%を占めており、複数の運用会社がカバーしきれていないということも要因だろう。逆に、それほど小型企業も含む多様な企業が統合報告書の作成に力を入れるようになっているということもできる。

 統合報告書の作成は上場企業の間に根付いてきているが、その報告書の内容が、株価にどのような評価として現れるだろうか。今回、5機関以上から「優れた統合報告書」を作っていると高く評価された3社の株価推移をTOPIX(東証株価指数)と比較した。比較期間は、政府から「コーポレートガバナンス」の強化が言われ始めた2013年を起点とし、「コーポレート・ガバナンスコード」が導入された2015年、そして、2017年7月にGPIFが、3つのESG指数を採用してパッシブ運用を開始した「ESG投資元年」を経て、2024年1月末までを振り返った。

 2018年1月にGPIFの運用委託機関から「優れた統合報告書」の評価を多くの機関から受けている伊藤忠商事は、その評価が公表開始された2018年頃から、TOPIXに対して明らかなアウトパフォームが観測される。そして、ESG投資が機関投資家の間で一つの潮流となった2020年以降に伊藤忠商事の株価は大きく上昇する。2020年8月には米国で「投資の神様」といわれるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイが伊藤忠商事をはじめ日本の商社株を大口で取得していることが明らかになり、2023年6月までにさらに買い増ししていることも報告された。そのことが、同社株をはじめ日本株全体の割安さを印象付けて日本株の上昇を促した要因の1つに数えられる。

 バフェット氏が投資した商社株は、伊藤忠商事のみならず丸紅、三菱商事など大手商社5社に及んでいるため、統合報告書の内容が優れていることが、バフェット氏の投資決断を促したとはいえないが、「優れた統合報告書」として連続して選定されている日立製作所もアサヒグループホールディングスも、2013年1月以降の株価の推移では、いずれもTOPIXを上回るパフォーマンスを記録している。折から、国内株価は2月22日に日経平均株価が34年2カ月ぶりにバブル期の最高値を更新し、史上最高値に躍り上がった。この上昇の背景には、日本企業の変革があるといわれるが、その大きな変化を象徴することの1つが統合報告書が明らかにする非財務情報開示の充実だろう。GPIFが7年にわたって地道に重要性を訴え続けた「統合報告書の充実」が上場企業の間で根付いてきたことも日本企業の大きな変化の1つに数えられる。(グラフは「統合報告書」が優れた企業の株価推移)