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投資魅力度が増しているグローバル債券市場、債券アクティブファンドの活躍余地広がる=PIMCOの見通し

2024/04/24 17:03

 為替が1ドル=155円に迫る34年ぶりの円安局面を迎え、改めて日米の金融政策の行方が注目を集めている。年初には米国は6月にも利下げが始まるという見通しが優勢だったが、今では年内に利下げが行われるのかさえ疑わしく、中には、一段の利上げの可能性すら取りざたされている。一方、日本は3月にマイナス金利政策を解除したが、その際に「当面、緩和的な金融環境が継続する」とした。この日銀の態度が米国の利下げ時期が後退したことによって円がじりじりと値崩れしている要因の1つになっている。世界最大級の債券運用者であるPIMCOの日本法人ピムコジャパンリミテッドの共同代表兼アジア太平洋共同運用統括責任者である正直知哉氏(写真)は4月23日にメディア向けの説明会を開催し、「現在のグローバル債券市場で『米国経済の「例外さ」』が重要なポイントと市場の見方を示した。各国の金融政策の動きがバラバラになることによって市場に歪みが乗じて「パッシブファンドよりアクティブファンドに優位な市場になっている」とした。

 正直氏は、グローバル経済の現状について、「2023年の先進国の経済成長率が1.6%と多くの国で潜在成長率を下回る成長となり、インフレ率は2022年後半〜2023年前半にピークを打ってインフレ高進が減速基調にある中で、『米国経済の「例外さ」』が重要なポイントになる。米国の2023年GDP成長率は2.5%、うち第4四半期(10ー12月期)は3.4%となった。これは米国の潜在成長率を上回る成長だ。これによって米国の利下げに向けた動きが変わってきている。

 「米国の例外さ」の理由は、ひとつには、パンデミック(コロナ・ショック)時に財政刺激策の規模が極めて大きかったこと。「この影響もあって、米国の財政赤字は2024年〜27年にかけてGDP比で6〜8%の水準になる見通し。これは、他の先進国が4%程度の水準にあることと異なっている」とした。また、中国経済の減速に伴う低インフレの波及効果についても、「米国は欧州や東南アジアと比較してGDPに占める中国からの輸入割合が低いため、中国の影響を受けにくい。GDP比で中国からの輸入は欧州は3%を占めるが、米国は1.5%だ」とし、米国経済が欧州などとは違うメカニズムで動いていることを示した。

 また、米国経済が米国以外の国と比較して金利引き上げに対する感応度が低いという特徴もあるという。正直氏は、「たとえば、住宅ローンについて、米国では30年固定ローンを大半の消費者が選択するが、カナダやオーストラリアでは短期金利に連動する変動金利を選択する比率が高い。政策金利の引き上げによって新規住宅ローン利用者の適用金利は上昇したものの、米国では既存のローン利用者の金利はほとんど上がっていない。これは既存のローン利用者の借入金利も上昇したカナダやオーストラリオア等の国々と比較してローン利用者の負担感の違いは明らかだ」とし、利上げによって経済成長にブレーキをかける効果が、米国は他の国々と比較して鈍いことの背景を説明した。これらの違いが、米国と他の国との金融政策変更のタイミングや大きさを変える要素になるとした。

 そして、現在のグローバル債券の利回り水準は、米国コア債券が4.8%、グローバル総合の利回りは5.1%、地方債の利回りが6.0%、そして、エージェンシーモーゲージ債がOAS(オプション調整後の利回り差)が0.77%であり、これらは過去10年で割安な水準にあって投資魅力が高まっている。これに対して、投資適格社債やハイイールド債は割高な水準にある。正直氏は、「米国債のような質の高い債券に魅力的な利回りがある。たとえば、米10年国債利回りはインフレ率を加味した実質利回りで2.3%前後の水準にあり、これは米国の潜在成長率より高い水準にある。このような状況は少なく、コア債券にとって良い投資環境にあるといえる。米国コア債券の利回りが4.8%であるということは、アクティブ運用で6〜7%程度のリターンが期待できる環境だ」と語った。

 そして、「米国よりも金利感応度が高い先進国は、一段と魅力的な市場といえる。オーストラリア、カナダ、英国などは、魅力的な市場といえる。一方、社債等のクレジットセクターはスプレッドが小さく割高な水準にあるが、米国の金融政策が高い金利を長期に維持することによって徐々に景気がスローダウンすることが考えられ、クオリティの高い銘柄を選別投資することでチャンスがあると考えている。重要なことは、よりグローバルな分散投資を行う必要があり、パッシブよりもアクティブ運用にチャンスが多い投資環境になっているということだ」とした。

 一方、日本については、「これまで長い期間にわたって『賃金』『物価』『金利』の『ゼロ・ノルム(ゼロという考え方を前提とした根強い慣行)』が残っていたが、これが移行しつつある段階といえる」との見方を示した。日本のインフレは、パンデミック後のグローバルインフレの影響に加えて、円安による輸入インフレが加わり、企業が原料高などを価格転嫁し始めたことで期待インフレに変わっていった。この物価上昇が賃金を引き上げる動きにつながっており、その賃上げが物価を一段と押し上げる力になりつつある。正直氏は、「日本でもインフレがトレンドに変わってきているとみてよいのではないだろうか」との見解だった。

 正直氏が「トレンド」という見方をしているのは、「人手不足が賃金を押し上げているが、この労働力不足は構造的なものといえる。日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じていたが、アベノミクスによって高齢者と女性の社会参加が促されて労働人口は押し上げられることになった。ただ、すでに女性の参加率は72%から74%に上がっており、米国の水準をも上回っている。これ以上の労働力の供給は難しく、需給ギャップは埋まらずに賃金の上昇圧力として働くだろう」という見通しが理由の1つ。

 そして、今後の国内の債券市場の見方として、「ベースケースとして想定しているのは、日本のインフレ率は昨年つけたピークからは低下傾向にあるが、基調として前年比1%を下回る可能性は低いだろうと考えている。基調的なインフレ率は1%〜2%の間で落ち着きどころを迎えると見込まれ、政策金利は夏ごろに0.25%引き上げ、年末には0.50%程度になっているのではないだろうか。国債買い入れは夏ごろから減少していくとみている。ただ、日本の金融政策は米国の政策の影響を受けることもあり、ベースケース以外のシナリオも考えておく必要がある」とした。

 また、「国内の機関投資家は国内債券を大きなアンダーウエイトにしてきたため、日銀の政策変更などを受けて国内債券のウエイトの復元に動き始めている」と紹介した上で、「今後、日銀が国債の買い入れを少なくしていくことで、より価格変動率は高まる方向にある。このような環境になれば、よりアクティブマネージャーの運用力が活かしやすい市場になってくる。国内債券においてもアクティブ運用にメリットは大きいと考える」と語っていた。