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「毎月分配型投信」を超える窓販商品は? 新NISAで問われる運用会社の「運用力」

2023/08/31 11:15

 2024年1月にスタートする「新NISA」を控えて、運用会社は改めて「自社の運用力」について問い直しているのではないだろうか。「新NISA」によって、「資産形成の時代」=「投資の時代」がいよいよ本格的に始まると期待されている。折しも、食料品やエネルギー価格の高騰などによって「インフレ(物価高)」が強く意識され、「ゼロ%台の預貯金金利では、お金(資産)の価値が守れない(目減りする)」ということから、目を背けてはいられなくなってきた。このような背景を活かして、「眠っていた預貯金の資金を投資信託へ流す」という大きな役割を期待されているのが、銀行等による「投信窓販」だ。そして、「窓販」の効果を一段と高めるために必要なのが、「投資の第一歩に相応しいと自信を持って勧められる商品」ではないだろうか。運用会社に求められているのは、「長期的に安定的にプラスリターンを積み重ねられる商品」といえる。それは、「S&P500」や「全世界株式(オール・カントリー)」などのインデックスファンドではなく、複数の資産を組み合わせたバランス型の運用商品ではないのだろうか。

 「窓販」は、担当者が顧客と面談し、投信等の活用の重要性を説明し、また、具体的な商品内容も説明した上で、顧客の納得の下で資金をシフトする。「日本国民の多くは、誰かに背中を押してもらわないとリスク商品への投資に踏み出すことは難しい」とされる。「つみたてNISA」によって、20代、30代の若者の一部がインデックスファンドを使ったつみたて投資をスタートするため、ネット証券に口座を開いたといわれているが、それは、日本国民全体からみれば、ほんの一握りの人たちだ。そして、自らネット証券に口座を開いて投資を始めた人たちの間にも、1年経ち、2年も経つと、「本当に今のままでいいのか、誰かに相談したい」と考える人が少なくないという。

 「窓販」の担当者は、銀行や証券会社に勤める金融のプロだ。銀行の担当者であれば、住宅ローンなどローンの話もできるので、家計のやり繰りも含めたマネープランの相談ができる。証券会社であれば、株式市場などマーケットの変化について過去の経験も踏まえた説明ができるだろう。「新NISAで、何をどうすればよいのか」という相談ばかりでなく、銀行を訪ねれば、「新NISAに定期的に積み立てる資金を安定的に確保するために、住宅ローンや保険を見直したい」などという相談ができる。地域によっては、「賃貸よりも持ち家を買った方が、毎月の家賃等の住居費を抑えられる」ということだってあるだろう。また、つみたて投資を始めてみたものの、投資対象に新興国株式インデックスを選んだために思うような投資成果が得られていないとか、米国株や日本株が時折大きく値下がりすることに不安を感じている人は、証券会社の担当から、市場見通しや経済見通しについての話を聞くこともできる。

 今の時代、ネットには玉石混交のたくさんの情報が氾濫しているが、何が正しいのかを見極めるのが難しい。また、自分の状況にぴったり当てはまる情報というのはなかなか見つからないものだ。金融市場や金融商品について専門的な見地から知識を身に着け、「顧客第一」の視点で、顧客の立場に立ったアドバイスができる「窓販担当者」にできることは多い。

 一方、運用会社には、「新NISA」を使って国民がめざす「資産形成」に利用しやすい商品の提供が求められる。特に、資産運用が初めてという預貯金から投信を購入したような人たちにとって、ハラハラドキドキすることなく、気が付いたら資産がしっかり増えていたと実感できるような商品が求められる。

 ちまたのSNSやネット媒体に溢れている「ほったらかし投資」は、非常に乱暴だ。「S&P500」、または、「全世界株式(オール・カントリー)インデックス」を投資対象として毎月一定額を長期につみたて投資をし、その後は、投資していることも忘れるぐらいに「ほったらかすこと」と説く。ポイントは、10年、20年という長期にわたってつみたてを続けることだという。それは、これまでの経験則に照らして、間違ってはいない投資手法だろう。ただ、つみたて投資で成功を得るためには、投資対象が開始当時よりも価格が上昇する、あるいは、投資開始後に下落したとしても反転して上昇するなど、一定期間の上昇相場が必要だ。投資対象が長期に右肩下がりに下がっていれば、たとえ20年にわたって積立してもプラスの収益をあげられない。その場合、「ほったらかし投資」では、「20年でダメな場合は、後プラス10年つみたてを続けよう」というくらいだ。

 投資初心者が安心して投資を継続できるのは、緩やかに上昇する資産に投資している時だろう。「5年で2倍になったが、投資評価額が元本の半分を割り込むようなことを何度か経験した」というようなことより、「5年で20%値上がりしているが、その間、投資資産の評価額が元本を10%以上割り込むことはなかった」というような投資成果の方が良いのではないだろうか。そのような値動きを実現する投資商品は、「バランス型投信」で実現しやすい。株式に単独で投資する投信は、1年間で20%〜30%も値下がりすることは珍しくない。そのような株価の値下がり時に、その下落を抑制するための資産を併せ持つのが「バランス型」だ。その上に、投資リスクを抑制する仕組みを持った商品が望ましい。株価が大きく下落する局面では株式への投資比率を落とすとか、株式とは異なる値動きをする金(ゴールド)などを保有してリスクを打ち消す組み合わせを意識した商品など、これまでも運用会社では様々な商品開発を行ってきている。

 たとえば、野村アセットマネジメントでは「のむラップ・ファンド」というファンドがある。同ファンドは、様々な資産に分散投資することによって、リスクの水準を予め決めた範囲に収まるように運用する。リスクの水準は「保守型」から「積極型」まで5段階で、投資する前から大まかなリスクのイメージを知ることができる。そして、経済環境に応じて資産配分比率を見直すという機能を付加している。野村アセットでは8月25日に販売会社を対象にした新NISA対策セミナーで、新NISAに向けた商品の1つに「のむラップ・ファンド」を取り上げて積極的にアピールしていた。

 リスクの水準を予め示して運用するという点では、アセットマネジメントOneの「投資のソムリエ」は、年4%程度のリスクに抑えて安定的な運用をめざす。このファンドもリスク水準を一定に保つために、市場環境や経済環境の変化に対応して分散投資した資産の配分比率を適宜見直す。また、日興アセットマネジメントの「財産3分法ファンド(不動産・債券・株式)」は、日本の資産家が伝統的に行ってきた不動産と株式、、そして、国債等の債券に投資して資産を安定的に増やすという知恵を活かした商品で、新NISAに向けて奇数月分配型を投入する。また、「スマート・ファイブ」は、株式、債券、不動産投信、金を投資対象とし、それぞれのリスク量が等しくなるような配分比率で分散投資することで、安定的な運用成績をめざす投信だ。

 「窓販」の拡大には、その時代にふさわしい商品の提供が必要だ。たとえば、「銀行窓販」が解禁された1998年12月からの数年間は、「グローバル・ソブリン・オープン(通称:グロソブ)」、「ピクテ・グローバル・インカム株式(通称:グロイン)」など、毎月分配型の投信が大きな人気を集めた。運用会社では、外国債券、高配当株式、外国REITなどインカム収益の高い投資対象を組み入れた毎月決算型の投信を積極的に投入することで「銀行窓販」の拡大を支える役割を担った。預貯金商品を取り扱ってきた銀行等にとって、「安定的な収益が払い出される」という商品性が受け入れられやすかったということだろう。ただ、この毎月分配型投信の人気は、「安定的な分配を維持するために原資産を払い出す」というたこ足分配が横行し、「資産形成に相応しくない」として金融庁が厳しく規制するようになった。そして、「新NISA」の対象商品からも除外されている。

 「新NISA」で求められる安定的に資産が増える金融商品とは、どの運用会社も取り組んできている商品といえる。それぞれの会社が理論的には、安定的に運用が可能という仕組みを考え出して商品化しているが、実際の投資環境は、過去のシミュレーションの結果と同じようには動かないため、必ずしも設計通りのパフォーマンスをあげられているわけではない。各社、その都度、微調整を重ね、新たな知見を加えるなどのテコ入れもしながら「安定的な運用」に相応しい商品を目指して奮闘しているということが実際のところだ。「新NISA」が始まって月日が経過し、どの販売会社も、あるいは、投資家の多くから、「あの運用会社の、この商品に投資しておけば間違いない」というような信頼を勝ち得る商品が出てくることが、「新NISA」の発展には不可欠の要素といえる。各社の運用の腕が試されている。(グラフは公募投信の販売チャネル別残高の推移)