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「反ESG」などの動きを超えて深化するサステナブル投資、ミローバCIOに聞く世界のESG投資

2024/03/07 11:45

 ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視するサステナブル投資が揺らいでいる。「グリーンウォッシング」などといわれるまがい物のESG投資があることが問題視され、また、米国でトランプ前大統領らが主張する「反ESG」(燃費や排ガス基準などのエネルギー規制などを撤廃するような主張)の動きも勢いを増している。米国などでは、一部の投資家がESG投資を避ける動きもあるという。新NISAがスタートし、長期投資によって資産形成をめざす投資家にとって、長期投資を前提としたESG投資は相性の良い投資手法と考えられていた。今後、世界の市場でESG投資は、どのような存在になっていくのだろうか? サステナブル投資に特化した運用会社である米国ミローバのCIO(最高投資責任者)イェンツ・ピアーズ氏(写真)に サステナブル投資を取り巻く現状についてコメントを求めた。

 ――ESGをめぐる反発や論争はどこまで進み、また、資産配分に大きな変化をもたらしたのでしょうか? 反ESGは北米以外ではどの程度広がっているのでしょうか?

 ESG投資をめぐる否定的な意見は、主に政治的な動機によるものと考えています。ESG/サステナブル投資は、より良いパフォーマンス実現のための意思決定が求められる投資家の受託者責任に違反するというのが主な論拠です。この議論は、サステナブル投資の本質がいかに理解されていないかを示しています。

 サステナビリティ要素の多くは企業財務に影響をもたらすものであり、それを無視することは受託者義務の違反につながるという反論は簡単にできます。例えば、女性が多い経営陣が率いる企業の業績はそうでない企業を上回る傾向があること、エネルギー効率の高い企業はエネルギーコストが低く、今後のエネルギー規制に対応しやすいこと、ガバナンスが不十分な企業では不正が起こるリスクが高く、罰金や将来的な資金調達コストの上昇につながる可能性があることなどが、調査で判明しています。

 ESG投資への反発を主導している米州政府の管理下にある投資ファンドや、ESG投資に関する規制が不透明なために訴訟リスクを軽減したいような米国の年金基金を除くと、資産配分への影響はほとんどないと見ています。過去2年間のESGファンドへの資金流入が、その前の数年間の好調な資金流入に比べて減少しているのは、主にその期間に多くのESG戦略がパフォーマンスの逆風に見舞われたことにあります。これは主に、金利上昇による(ESG戦略が好んで保有する)成長余地の高い企業のバリュエーションへの影響と、再生可能エネルギー関連銘柄のパフォーマンスへの逆風によるものです。こうした逆風の多くが止んだことから、現在のバリュエーションとファンダメンタルズの改善は、パフォーマンスの回復を支える可能性があります。

 ESG投資への反発の影響を最も大きく受けたのは、主に米国を拠点とする主要な運用会社のポジショニングであったと思われます。これらの運用会社は、ESG要素を統合した投資プロセスの営業を控え、多くの場合、ESG調査も大幅に縮小しています。ESG要素の多くが企業や株式のパフォーマンスに影響を及ぼしていることを考えると、このような動向は最終的にはESGに特化した運用会社に競争優位性をもたらすことになる可能性があります。

 ――最近の欧州や国際的な資産ベンチマークや規制動向により、状況は変わる可能性はありますか?

 欧州では、サステナブル・ファイナンス開示規制(SFDR)の枠組みは、サステナビリティ認証に基づいて商品を分類することにより、市場に透明性を提供するという第一の目的を達成する上で効果的でした。この規制は現在改正中です。当社は、SFDR規制は引き続き、サステナブル投資の発展を促進すると同時に、投資家にとって最大限の透明性を確保し、グリーンウォッシングを回避するためのツールを市場に提供する、という2つの目的を掲げるべきであると確信しています。

 米国では、証券取引委員会(SEC)が、2001年の「Names Rule」の適用範囲を拡大し、グロース、バリュー、ESG投資といったトピックに焦点を当てたファンドを対象に加えたことは興味深いことです。従来の規則は、ファンドの資産の80%以上を、ファンド名に最も即した投資タイプまたは資産クラスに投資することを義務付けていました。改正法では、ファンドの80%規則遵守を確実にするため、四半期ごとのポートフォリオ見直しを義務付けました。これは、投資家に対するファンドの目的の透明性を高めると共に、グリーンウォッシングを防止するための前進であり、良好な兆しだと思われます。

 アジアでは、サステナブル・ファイナンスに向けた規制整備が急速に進んでおり、各国でそれぞれの規制が実施されています。世界的には、ISSB基準が多くの国・地域でサステナビリティ報告要件に大きな影響を与えると予想されており、義務化の可能性もあるという事実が挙げられます。アジアの多くの規制当局がISSB基準への支持を表明しており、今後基準を採用する意向を表明しているところもあります。ISSBに加えて、世界初となるシンガポール・アジア・マルチセクター分類法を導入したシンガポールも注目しています。これは、グリーン・移行・不適格な活動を明確にし、その結果、必要な資本を適切な解決策へと振り向け、良好なサステナビリティの成果をもたらすことや、投資家に対する透明性や信頼性を強化させるという点で、重要なマイルストーンです。
 
 ――ESG投資の優先度は、気候変動やその他サステナビリティ観点から導かれた保険数理や科学的根拠に基づく仮定に照らしてみるとどうでしょうか?

 科学的根拠に基づく目標が、企業のESG方針、ひいては投資家のESG手法の基礎となることが多くなってきています。さらに、より多くのアセットマネージャーやアセットオーナーは、標準化された共通のフレームワークに収束しつつあります。国連のSDGsへの貢献は、投資が世界にどのようなインパクトを与えるかを定義するのに頻繁に使われています。しかし、客観的な測定基準や報告基準は必ずしも容易に利用できるものではなく、当社は、科学的根拠に基づく基準がない、あるいは不足している状況を解消するための主導的な役割を果たすことにコミットしています。当社は、「削減貢献量」基準や生物多様性影響測定の定義など、多くの場合、同業他社と積極的に協力し、世界的な基準の設定に努めています。