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金融審議会、金融経済教育推進機構が新たに配置する認定アドバイザーに金融機関の従業員は資格がないのか?

2024/01/29 18:12

 金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」「顧客本位タスクフォース」合同会合が1月26日に開催され、「国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針(案)」が示されるとともに、今年春の設立が検討されている「金融経済教育推進機構」と機構が認定する「認定アドバイザー」などについての案が出され、参加した委員からの意見を聞いた。特に、「認定アドバイザー」については、中立性を担保する観点から金融機関の従業員、また、金融商品の販売などから報酬を得ているIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)などは対象外とされたことについて、「民間金融機関との連携なくして金融教育のすそ野拡大は難しいのではないか」という意見が出ていた。

 「国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針(案)」は、「『成長と分配の好循環』を実現し、我が国経済の持続的な成長と国民の安定的な資産形成を実現するためには、インベストメント・チェーンに参加する全ての主体が、十分にその機能を発揮することが重要である。すなわち、家計の安定的な資産形成を実現するためには、持続的な企業価値向上に向けた取組だけでなく、NISAや私的年金等の制度の普及、金融・資本市場に関係する事業者等の監督、学校教育や職域・地域における教育等を通じた金融リテラシーの向上など、利用者の利便向上とその保護を図るための様々な施策を、国全体として総合的に進めていく必要がある」との考えに基づいて、具体的な推進策の方針を示すもの。

 具体的な成果としてわかりやすいのは、今年始まった新しいNISAの利用者数の拡大がある。資産所得倍増プランでは「5年間でNISA総合口座を現在の1700万件から3400万件へと倍増させる」、「5年間でNISA買い付け額を現在の28兆円から56兆円と倍増させる」としている目標値を踏襲している。また、新たに、「令和10年度末を目途に『金融経済教育を受けたと認識している人の割合』が(現在は7%程度のところ)米国並みの20%となることを目指す」という目標も掲げている。

 合同会合の中で指摘されたのは、現在のところ年間30万人程度を対象に実施されている金融教育セミナーを、5年後に20%の人々(18歳〜70歳の約8000万人を対象にすると1600万人)に行き渡らせるとすると、年間320万人を対象にした教育を実施する必要がある。「現在の年間30万人程度の実施実績と比較すると10倍以上の規模で実施していく必要があるが、それだけの取り組みが実際問題として実行可能なのか」と疑問視する意見も出た。

 このような金融教育を広く実施する担い手として設立されるのが、「金融経済教育推進機構」と位置付けられている。根拠法として2023年11月29日に公布された「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」を掲げる認可法人として2024年4月に設立し、同年8月から本格稼働を計画している。職員数は約70名で、年間事業費の規模は約20億円とし、うち9割以上は民間からの拠出を予定している。既に、同機構については、日本銀行が事務局を務める「金融広報中央委員会」の機能を移管し、資金や人員を拠出すること、全国銀行協会、日本証券業協会、投資信託協会などが関連事業を移管し、資金・人員を拠出することなどが計画されている。機構の代表者である理事長は内閣総理大臣が指名する。

 機構の主な事業は、(1)講師派遣事業による官民一体となった「学びの場」づくり、(2)イベント・セミナー事業は企業の従業員向けセミナーや学校・教育支援を行う、(3)個別相談事業では「家計管理」「生活設計」「資産形成」等に関し、個人の状況に応じたアドバイスを提供し、そして、(4)認定アドバイザー事業として特定の金融事業者・金融商品に偏らないアドバイスを行うアドバイザーを認定・公表・支援するとする。また、これらに加え、教材・コンテンツ制作、アドバイザーの養成プログラムの開発と提供、また、教育活動の目標やKPIを設定し、調査・分析を行っていくとしている。

 この中で、特に注目されたのは、金融教育活動の実質的な担い手になることが期待される「認定アドバイザー」の資格要件だった。金融庁が示した現状の案では、「家計管理、生活設計、NISA・iDeCo等の資産形成支援制度、金融商品・サービス、消費生活相談等に関するアドバイスを提供するために有益な資格(CFP、AFP、FP技能検定2級以上、外務員(1種)、弁護士等の士業、消費者生活相談員など)及び一定の業務経験を有すること」としている。そして、金融機関等に所属している者、また、金融機関等から報酬等を得ている者を除外するとしている。

 果たして、金融機関の従業員を除外してしまうと、金融相談業について一定の経験のある有資格者を十分な量を確保することができるのだろうかというのが複数の委員から出された。「金融機関に所属していても、フィデューシャリー・デューティ(顧客本位の業務運営)宣言をしてもらって、金融商品の具体的な提案はしないという条件で認定アドバイザーの資格を与えても良いのではないか」という意見があった。また、「金融教育の普及活動が定着するためには『認定アドバイザー』が業として持続的に事業が行えることが重要。家計相談などだけで業として成立するのか疑問」との声も出た。金融庁がめざしているのは、弁護士や会計士などの士業と同様に、専門的な知識や技能を活かして、その専門的な知識やサービスに対する報酬を得るアドバイザー業の確立のようだ。金融相談に報酬を支払うという文化が根付いていない現状を打開するために、「割引クーポン」などを発行することで相談料の一部を補助するとしている。

 従来の金融サービスでは、生活設計やライフプランニングなどのコンサルティングについては金融機関において無料で実施され、その後、そのプラン実現のための商品の提供において販売手数料や運用管理手数料を徴収することによって金融機関の収益としてきた。ただ、それによって、いたずらに高い手数料が得られる商品を提供されるなど、顧客の利益にならない金融サービスが提供される弊害が指摘されてきた。このような利益相反に相当する弊害を排除するために、金融機関の従業員を除外するという案になっている。「認定アドバイザー」については、相談料の一部を補助するなど従来より踏み込んだ内容になり、「金融リテラシーが低いといわれてきた『壁』を壊したい」という断固とした決意はうかがえるだけに、どの程度の陣容でスタートできるのかが大いに気になるところだ。

 現実問題として金融相談について実務経験を積んだ優秀な人材は、金融機関に集中している。この人材を活かす方法を考える方が現実的ではないかという意見もあった。金融リテラシーが高まれば、自ずと不当な手数料を請求するような商品を顧客は求めない。現在においても、商品購入の最終判断は顧客に委ねられるという点は順守されている。「鶏と卵」ではないが、まずは、国民の20%に金融教育の体験を広めることを優先し、その高い金融リテラシーを背景に金融機関が横暴を働こうにも働けないという環境が作れるという理屈も成立すると考えられる。金融教育を全国津々浦々に広めるため、「地方にネットワークのある信用金庫なども含めた金融機関の従業員やネットワークを活用することも検討してほしい」という意見もあった。

 金融庁は、国民の金融リテラシーの向上について、「金融機関の役割を決して否定するものではなく、機構と民間金融機関の連携を想定している」という。今後、金融庁で再検討の上で、最終案が金融審議会に提出されることになっている。「認定アドバイザー」の資格要件について、どのような判断で新しい案が示されるのか注目されるところだ。(イメージ写真提供:123RF)