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新NISAで投資はじめ(1)、どのくらい長ければ「長期」投資といえるのか?

2024/01/19 14:12

 新NISAを使った投資について、どのような成功イメージを持っているだろうか? 資産形成について「長期・分散・積立」が大事という話は、様々なところで推奨されている。また、少し踏み込んだアドバイスをするところでは、「投資信託のコスト(運用に関する手数料)の安い商品を選ぶように」といわれ、「アクティブファンドはコストが高いものの、必ずインデックスファンドに勝てるというものでもないので、まずは、低コストのインデックスファンドを買っておいた方が良い」と説く。そこで、低コストのインデックスファンドで積立投資を開始するという流れになるのだが、その結果、どのような投資成果になるのだろうか? 「積立」で投資を始めたものの、「長期」とはどの程度の期間をいうのだろう?

 全投資信託(投信)の中で、過去10年間のトータルリターン(信託報酬等を控除後、基準価額の変動に加え分配金等を含めたすべての投資収益)で全投資信託の中でトップの成績をあげているのは「野村 世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」だ(2023年12月末現在)。この投信こそが、現存する投信の中で10年間投資した場合のベストの選択肢だったといえる。その収益率は年率で24.49%に達している。複利で計算すると10万円の資金が、10年後には89.4万円になる計算だ。毎月1万円を積立投資した場合、10年間での投資元本120万円の評価額は、収益非課税のNISA口座で運用した場合は441.54万円になる。10年間で一括投資の場合は資金が約9倍となり、積立投資を行っても投資元本が約3.7倍になる計算だ。

 このような結果だけを見てみると、投資で収益をあげることは難しくないように感じられるかもしれない。しかし、10年前、この投信に投資していたら10年後は投資額が9倍になりますなどと断言できる人はいなかった。もちろん、投資するにあたって、この投信がどのような運用方針で運用するのか、具体的にどの資産に投資するつもりなのかということは「目論見書」等によって情報を知ることができる。

 この投信の場合は、名前の通り、世界の半導体関連株式に投資する。そして、シリーズとある通り、この投信は同じ考え方に基づいて投資対象の違う「世界金融株投資」「世界資源株投資」「世界ヘルスケア株投資」という全部で4つの異なる産業(業種)に投資する投信が並列に並べられて提供された。1月18日現在の基準価額で比較すると「世界半導体株投資」は11万148円と突出して高く、次いで、「世界ヘルスケア株投資」が4万2925円、「世界金融株投資」が2万4108円、「世界資源株投資」が1万9532円となっている。この4本はそれぞれに分配金を出し、その分配金額は同じではないので基準価額だけで投資成績の全てを表しているわけではないが、おおよその傾向は基準価額の水準が示している。「どの商品を選ぶか」ということが投資成績に与える影響は非常に大きい。

 そして、もうひとつ重要なことは、この「野村 世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」が最初から年率24%超という優れた成績であったわけではないということだ。この投信は2009年8月の設定で、設定から約1年後の2010年8月末の基準価額は8881円だった。その後、基準価額は1万2000円程度になるものの、設定から2年後の2011年8月末に再び8954円に落ち込む。設定から2年間は、鳴かず飛ばずで、むしろ、投資収益がマイナスのダメファンドの1つだった。もちろん、この当時は、2008年の世界金融恐慌(リーマン・ショック)からの立ち直りの時期と重なるため、TOPIX(東証株価指数)の2009年8月末を1万円として同じようにTOPIXの推移を追うと、2010年8月末が8332円、2011年8月末が7979円となり、この間の先進国株式(除く日本、MSCIコクサイ、円ベース)は2010年8月末が9301円、2011年8月末が9758円という結果だった。

 世界的にみて株式市場が不安定で弱い時期だったことも運用成績が低迷した理由に加えられるが、そうであったとしても、投資開始から2年経過しても同投信は当初の価格から10%超のマイナスの結果しか残せていなかったことになる。その時点で、この投信に継続して投資をし続けようと思うだろうか? もっと他に良い投資先がないものかと、他を探しにいかないだろうか? 実際にこの時期に、新興国株式(MSCIエマージング・マーケッツ、円ベース)であれば、2009年8月末を1万円とすれば、2010年8月末は1万715円、2011年8月末は1万624円とプラスのリターンをあげられている。「より儲かりそうな資産に乗り換える」という誘惑は絶え間がない。

 しかし、後で振り返ると、2011年8月末の8954円を底にして、同投信の基準価額は目覚ましく上昇していくことになった。後に運用成績が抜群の結果となる投信であっても、数年の間は暗く厳しい成績に終始することがあるということだ。

 「野村 世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」が投資する半導体産業は、景気の浮沈の影響を受けやすい産業とされ、好景気の折には関連企業の業績は目覚ましく伸びるものの、不景気の時には大量の在庫を抱えて経営危機に陥る企業も出るほど、業績のアップダウンが大きい。ただ、「半導体」は「産業の米」といわれるほど、工業製品には不可欠の部品であり、産業そのものの価値は高い。2023年は「生成AI(人工知能)」が大いに注目され、半導体の塊といえるAIがいよいよ社会で実際に活用される時代が近づいたことが印象付けられた1年間だった。半導体関連株への人気も一気に高まり、世界的なリーダーと目される企業の1つであるエヌビディアの株価は2023年の1年間で約3.4倍に値上がりした。同投信の組み入れ筆頭銘柄もエヌビディアになっている。

 このように、後になって振り返ると、中長期にわたる成長や発展が期待される投資対象は、数年間の厳しい時期があっても、その期間を我慢できれば、後々に大きな成果につながるということもある。もちろん、中には、数年間のマイナスリターンが、10年経っても20年経ってもマイナスから脱しきれないという場合もある。運用成績が良くない時には、その投資対象には将来の明るい見通しがあるのかということについてじっくりと考えることも必要だ。当然、その投信に投資を決めた時には、将来の明るい展望について確信があったはずなので、その見方を変える必要があるのかどうかについて検討してみることが大事だ。世の中は、何かをきっかけに大きく変わることがある。インターネットや携帯電話が今のように発展したのは20年ほど前のことからで、それ以前にはインターネットや携帯電話がこれほど日常生活に入り込むとは一般的には思われていなかった。

 投資開始から数年経っても、たとえ、投信の運用成績が悪くても、投資対象の将来の見通しが明るいままで変化が感じられなければ、その投資は5年、10年と続けていくべきだろう。1年や2年の成績で良し悪しを決めつけてはいけない。ただ、10年経っても思わしくない成績が続いている場合は、「見込み違い」といえるのかもしれない。投資の責任は自分に返ってくる。「間違った投資をしてしまった」と反省し、その反省を活かして次の投資に挑みたい。一度の失敗で全てが終わるわけではないのだから。トライした経験が、次の投資判断をレベルアップさせることにつながるだろう。(グラフは、「野村 世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」の積立投資の推移)