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確定拠出年金加入者1000万人と資産残高23兆円の突破を確認、元本確保型商品での運用比率は4割を切る
2023/12/20 17:09
企業型確定拠出年金(企業型DC)やiDeCo(個人型確定拠出年金)の資産運用状況等が確認できる「確定拠出年金統計資料(2023年3月末)」が12月15日に公表された。同資料は、運営管理機関連絡協議会がまとめている。記録関連運営管理機関4社(SBIベネフィット・システムズ、損保ジャパンDC証券、日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー、日本レコード・キーピング・ネットワーク)のデータを集計したもの。国内の確定拠出年金の情報を網羅的にまとめた資料として年1回発表されている。2023年3月末時点の加入者数は、企業型DCが805万3592人で、iDeCoの加入者数289万9985人と合わせ、合計1095万3577人になった。運用資産残高は、企業型DCが18兆8300億円、iDeCoが約4兆3800億円で合計約23兆2千億円になった。いずれも過去最高を更新している。
確定拠出年金制度は2001年10月にスタートした。それまでの企業年金制度であった確定給付型(将来の企業年金額を予め決めておく年金制度、不足分は企業側が補填する仕組み)の企業年金において運用成績の悪化によって巨額の年金債務が発生したことを踏まえ、企業側が掛け金を拠出するだけにして、運用を個々の従業員に委ねる確定拠出年金制度が導入されたのだ。その後、転職等で企業を離れた後も運用を継続できるよう、個人型確定拠出年金制度も整備された。そして、確定拠出年金制度は、制度発足後、右肩上がりで加入者数、運用資産残高を伸ばし続けている。
たとえば、2018年3月末時点での加入者数は企業型で約650万人、iDeCoは約87万人だった。5年間で企業型は24%増、個人型は3.3倍に加入者が増えた。運用資産残高も2018年3月末は企業型が約11.7兆円、個人型が約1.6兆円だったため、5年間で企業型が61%増、個人型も2.7倍に増えている。
このような規模の拡大だけではなく、運用の内容も大きく変わってきている。制度発足当初から問題視されていたのは、運用を任されている加入者(従業員)が、運用指図等をしないまま年金資産を定期預金等の元本確保型商品に置きっぱなしにしていることだった。制度が始まった2001年は日銀のゼロ金利政策が解除されて正常化に向けた動きが続いていた頃ではあるが、その後、2008年の世界金融危機(リーマンショック)によって量的緩和政策やマイナス金利政策などといった超低金利政策がとられ、日本は世界が経験したことが無いようなデフレ(物価下落)経済を経験する。定期預金の金利がゼロ%台で運用してもほとんど資金が増えない状況であっても、物価がマイナスに動いていれば、実質的には資産の価値は向上していることになるため、元本確保型商品のみでの運用も必ずしも間違いとはいえなかった。
しかし、2012年からのアベノミクスによる株高や、その後の「ゴルディロックス相場」といわれた世界的な運用好環境、そして、コロナショック以降の米国株式をはじめとした先進国株式の大きな上昇相場など、株式に投資しないことによる収益機会損失が続くことになった。そこで、近年では、「企業型DCにおける加入者教育の不足」が盛んに指摘されるようになり、「指定運用方法(加入者が運用指図しない場合に、自動的に制度で購入される商品)」に元本確保型以外の商品を選ぶなど、制度において「運用」を重視する姿勢が強化されるようになった。
実際に、制度における資産運用の状況を振り返ると、2018年3月末時点での元本確保型商品での運用は、企業型DCで58.5%と資産全体の過半を占めていた。それが、2023年3月末時点では39.7%と4割の水準をも下回ってきている。これは、個人型(iDeCo)では、2018年3月末時点で元本確保型が60.1%だったものが、2022年3月末で37.7%と4割水準を下回り、2023年3月末には34.2%と一段と比率が低くなっている。元本確保型商品の比率が小さくなるとともに、投資信託を使った運用比率が高まり、特に、この2〜3年は、外国株式に投資する投資信託の利用が進んでいる。
外国株式を主たる投資対象とした投資信託での運用比率は、2018年3月末時点では企業型で8.1%、個人型でも8.2%に過ぎなかった。それが、2021年3月末には企業型12.4%、個人型18.0%に高まり、2023年3月末には企業型で17.1%、個人型では27.7%を占めるまでになっている。個人型では預貯金等の25.6%を抜いて、最も配分比率が高い資産になっている。
もはや元本確保型での運用が4割の水準を下回り、元本確保型商品で眠っていたDC資産は覚醒したといっていいだろう。運用を始めると、世界経済の動き、また、株式市場や金利の動きなどに無関心ではいられなくなるものだ。運用を始めた加入者に、いかに情報を届け、運用をサポートしていくかということも、これからのDC制度の運営者(企業型DCを提供している企業、また、運営管理機関、そして、商品を提供している運用会社等)には重要な役割となってくるだろう。今後は、運用によって資産の拡大が加速していくかどうかなどにも注目していきたい。(図版は、企業型DCの運用状況の推移)