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GPIFが主導する運用機関のエンゲージメント活動は、証券市場の質的向上に貢献しているか?

2024/03/27 18:45

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は3月26日に「2023年 スチュワードシップ(受託者責任)活動報告」を公表した。この報告においては、世界最大の機関投資家として約200兆円の運用資産を管理運用するGPIFは、その資産の9割をインデックス(指数)に連動するパッシブ運用に委ねていることから、投資先との建設的な対話を進めるエンゲージメントも、パッシブ運用を行う運用会社による活動を重視していることを強調している。このため、「エンゲージメント強化型パッシブ」の運用会社を選定し、現在はパッシブ運用については選定した4社によってエンゲージメント活動を特に強化している。GPIFが推進する運用機関のエンゲージメント活動強化に注目したい。

 GPIFは、「ユニバーサル・オーナー」(広範な資産を持つ資金規模の大きい投資家)、かつ、「超長期投資家」(100年後を視野に入れた年金財政の一翼を担う)として、スチュワードシップ活動を重視している。その活動の主眼は、企業の長期的な成長を阻害する活動を防ぎ、市場全体が持続的に成長することが不可欠という考え方の下、、運用受託機関と投資先との間で、持続的な成長に資するESGも考慮に入れた「建設的な対話」(エンゲージメント)を促進することで、「長期的な企業価値向上」が「経済全体の成長」に繋がり、最終的に「長期的なリターン向上」というインベストメントチェーンにおけるWin−Win環境の構築を目指すとしている。

 たとえば、国内株式運用受託機関による日本株のエンゲージメント状況は、2023年1月〜12月の期間において、上場企業2312社のうち40%にあたる924社と実施。対話を行った企業の時価総額は、東証全体の94%を占める。対話を行った運用機関のパッシブ・アクティブ比率はパッシブが84%を占めている(パッシブとアクティブを両方委託している機関については委託資金が大きい方をカウント対象とする)。

 この対話している企業の規模別実施比率は、「TOPIX100」の構成企業は100%で、「TOPIX Mid400」では92%、「TOPIX Small」かつ「TOPIX1000」では52%という結果になっている。

 「エンゲージメント強化型パッシブファンド」は、エンゲージメントに適切なKPIを設定(中長期のエンゲージメント活動のゴール設定、達成に向けた年間の計画=マイルストーンなど)し、スチュワードシップ活動を行う組織体制が優れていると評価できる運用プランに対して委託を行っている。この運用を委託されているのは、2018年にスタートしたアセットマネジメントOneとフィデリティ投信、そして、2021年にスタートした三井住友トラスト・アセットマネジメント、りそなアセットマネジメントの合計4社だ。今回の報告書では、この4社の取り組み状況について現状報告がなされている。

 アセットマネジメントOneは、18のESG課題を設定し、問題意識(課題)や目指すべき姿(ゴール)、目指す企業行動(アクション)を示し、エンゲージメント活動の方向性を明確化。重点企業を対象に各課題に基づいたエンゲージメントを実施している。8段階のマイルストーンを設定し、課題設定から課題解決までの進捗状況を定期的にGPIFに報告している。2023年度第3四半期まで、マイルストーン管理対象は448課題であり、この68%の案件で予定通り、または、それ以上の進捗がみられ、気候変動、サステナビリティ経営、デジタルトランスフォーメーションなどで72件の課題解決を実現したと報告している。

 フィデリティ投信は、エンゲージメントの対象企業を、(1)時価総額1兆円以上、(2)企業価値が50%以上改善すると見込まれるという条件で絞り込み、市場時価総額に意味のあるインパクトをもたらす可能性のある大企業とのエンゲージメントを重点的におこなっている。エンゲージメント強化型パッシブ運用においては、エンゲージメントの進捗管理に、インプット・アウトプット・アウトカムの3つの指標を設け、それぞれエンゲージメントの進捗状況に応じた得点を付与し、定期的にGPIFに報告している。その結果、課題を共有するインプットの合計値は対象企業全体で計画の約7割まで進捗し、うち、約半数の企業でインプットのフェーズがほぼ完了し、企業のアクションを待つ段階に進んだと報告している。

 三井住友トラスト・アセットマネジメントは、12のESGテーマをリスクと機会の観点で分析し、課題設定を行った上で、各ESGテーマのゴール(長期目標)からバックキャストによる6段階のマイルストーンを設定し、ターゲット(中期目標)達成をめざしてエンゲージメントを実施し、このエンゲージメント進捗状況を定期的にGPIFに報告している。既にESG全てのテーマで多くの企業がステップ4(経営層と課題認識を共有)に前進し、S(社会)とG(ガバナンス)に課題では、ステップ5(施策実行)、ステップ6(課題解決)に進んでいる企業も増えている。

 りそなアセットマネジメントは、インハウスのAI技術を活用し、統合報告書を分析する着眼点を評価項目として設定し、スコア化することで課題の所在を明確にしている。企業ごとに企業価値向上に向けたマイルストーンを設定し、課題設定から課題解決までのエンゲージメントの進捗状況を定期的にGPIFに報告している。企業とのエンゲージメントの際には、定量スコアにエンゲージメント・マネジャーのコメントを付与した資料を提供して意見交換を行うようにしている。エンゲージメント対象企業の統合報告書の内容の改善(質的向上)は、対象企業のAIスコアの平均値が上昇しており、全般的に進んでいることが確認できる。

 このようにエンゲージメント強化型パッシブに取り組む運用会社では、それぞれに特徴的なエンゲージメント活動を実施しているが、その他の運用委託先運用機関においても、それぞれの観点によるエンゲージメント活動を実施している。GPIFでは、これらの取り組みが「リスク調整後のリターンを改善する効果があるのか」について効果測定を実施する計画だ。2023年度には「エンゲージメントの効果検証」と「企業価値・投資収益向上に資するESG要素の研究」について分析を行っている。エンゲージメントの結果が、ESG指標や企業価値向上に影響を与えたかどうかについて因果関係を明らかにし、ESG投資が企業行動に影響を与えたかどうかについても因果関係を解明したいとしている。これらは、分析結果がまとまったのちに公表するとしている。

 引き続き、GPIFが大規模に、かつ、継続的に進めているスチュワードシップ活動に注目していきたい。(イメージ写真提供:123RF)