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国内株価の上昇から取り残されたJ−REIT、国内株式との歴史的な割安度が強まる

2023/10/12 11:30

 2023年9月末時点で国内株式のインデックス(TOPIX)で年初来22.82%上昇しているのに対し、J−REIT(東証REIT指数)は同1.82%下落している。J−REITの主力市場であるオフィスの空室率が供給過剰を示す6%台で高止まりしている他、国内の長期金利にも上昇圧力がかかる状況になり、金利上昇がJ−REITの経営を圧迫するという見方が強まるなど、J−REIT市場の逆風が意識された動きといえる。しかし、「J−REITの相対的な収益の安定性や利回り面の高さ、堅調に推移する不動産価格を背景とした資産価値を見直す動きから緩やかに上昇する展開を予想」(国内最大のJ−REITアクティブファンドを運用する三井住友トラスト・アセットマネジメント)、「今後、株式と比べた出遅れ感や高い利回りに着目した買いが進む可能性もありそう」(ニッセイアセットマネジメント)など、J−REITの運用者からは比較的強気の見通しが出ている。特に、J−REITの予想配当利回り(23年9月末時点)は4.18%と、10年国債利回り0.77%と比較して魅力的な利回り水準になっている。

 不動産調査会社の三鬼商事が発表した8月の東京都心5区のオフィス市況で、空室率は6.40%と、供給過剰の目安とされる5%を31カ月連続で上回った。大型オフィスビルの供給に加え、コロナ禍をきっかけに、オフィスに出社しないリモートワークが定着したことでオフィス需要が低下していることが空室率が高止まりしている理由と考えられ、都心5区オフィスビルの賃料水準も緩やかな低下を続けている。一方、9月20日に国土交通省が発表した「令和5年都道府県地価調査」では、2023年7月1日時点で全国の全用途平均、住宅地、商業地はいずれも2年連続の上昇となった。過去10年の三大都市圏の地価変動率の推移は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて2020年に住宅地が前年比マイナスになるなど低調な局面があったが、その後は回復に向かっている。「地価上昇はJ−REITの保有資産の価値向上につながることが期待される」(アセットマネジメントOne)という見方もある。

 一方、日本政府観光局が発表した8月の訪日外国人観光客数は215万6900人(推計)と、回復率で前月を上回り、コロナ禍前の8割を超える水準となった。2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」などを踏まえ、今後更なる観光政策の推進が見込まれており、引き続きインバウンド需要の増加が期待されている。ホテルや商業施設などにとっては追い風だ。国内のオフィス需要の低迷がマイナス材料になっているが、「日本よりもオフィス空室率が高い米国主要都市ではオフィスを住宅に転換するなどの取り組みがなされており、日本のオフィス空室率の高まりは、オフィスをホテルや住宅に転換するといった新たな取り組みの契機となるかもしれない」(ニッセイアセット)と、市場の底入れ転換を期待する考え方もある。

 株価(TOPIX)との関係をみると、J−REIT指数の割安度が際立っている。ニッセイアセットの分析では、「9月末の東証REIT指数のTOPIXに対する下方乖離幅は、東証REIT指数の算出が開始された2003年3月末以降で見ると、最高水準となっている。足元のJ−REITはTOPIXに対し、出遅れ感の強い状態にある」とする。さらに、純資産との関係でみても9月末のNAV倍率(=投資口価格/1口当り純資産額)は0.94倍と前月末の0.96倍から低下した。過去平均(2012年12月末〜2023年9月末)の1.17倍を25カ月連続で下回っている。株式市場で東証がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して改善努力を促したが、J−REITでは市場平均が1倍割れの状況に陥ってしまっている。

 日本を除く先進国の中央銀行が2022年に大幅な利上げを実施し、今では、金利引き上げのピークを迎えたとみられる中、ひとり日銀のみが超低金利政策を継続したため、今は、どのタイミングで利上げに転じるのかが注目されている。利上げは、借り入れが多いREIT各社にとって経営の圧迫要因であり、かつ、配当利回りの点でJ−REITの魅力を削ぐ要因にもなる。市場金利に上昇の圧力があることは、J−REITにとって決して良い環境とはいえず、その良くない環境は続いていることは間違いない。しかし、J−REITは国内株式と比較して相対的な割安度が強いことは事実だ。今、国内株式の見直し機運が高まっているが、その視線でJ−REITについて改めて検討するタイミングを迎えているのではないだろうか。(グラフは、TOPIXと東証REIT指数の推移)