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信託報酬率が年0.05775%のインデックスファンド、「Tracers 全世界株式」が4月26日設定

2023/04/10 18:09

 日興アセットマネジメントは信託報酬率が年0.05775%(税込み)のインデックスファンド「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」を新規設定する。4月10日に有価証券届出書が提出・情報開示され明らかになった。設定日は4月26日で、当初の販売会社はSBI証券になっている。現在、全世界株式(オール・カントリー)を対象としたインデックスファンドで最も低い信託報酬率は「たわらノーロード」の年0.1133%(税込み)であり、この水準を一気に引き下げることになる。このファンド設定が、今後のインデックスファンドの信託報酬率の引き下げ競争を一段と促進することになるのか注目される。

 インデックスファンドの信託報酬率については、3月14日に「たわらノーロード S&P500」が信託報酬率年0.09372%(税込み)で新規設定されることが有価証券届出書で明らかになると、翌15日に「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が信託報酬等(税込)を「年率0.0968%以内」から「同0.9372%以内」に引き下げると発表。そして、3月24日に「たわらノーロード」が主要インデックスファンドについて業界最低水準に引き下げた。「たわらノーロード 先進国株式」は「年率0.10989%(税込み)」から「同0.09889%」、「たわらノーロード 全世界株式」は「同0.132%」から「同0.1133%」、「たわらノーロード 新興国株式」は「同0.374%」から「同0.1859%」とした。これにも即座に「eMAXIS Slim」が対応するインデックスファンドの信託報酬率を同水準に引き下げると発表するなど、「業界最低水準の信託報酬率」を巡ってつばぜり合いがあった。

 今回、日興アセットが設定する「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」が設けた「年0.05775%(税抜き0.0525%)」という水準は、既存の信託報酬率引き下げ競争の次元を一段と引き下げるインパクトがある。信託報酬率の配分は、委託会社(日興アセット)、販売会社(SBI証券)、受託会社(野村信託銀行)がそれぞれ年0.0175%(税抜き)を分け合うということになっている。これが、「たわらノーロード 全世界株式」の場合は、委託会社が年0.033%、販売会社が年0.050%、受託会社が年0.020%になっている。「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」では委託会社が得る報酬が「たわらノーロード 全世界株式」の約半分、販売会社では概ね3分の1の水準になっている。

 これほど極端な信託報酬率が打ち出されたのは、2024年1月から始まる「新NISA」への期待の表れと考えられる。現行の「一般NISA」や「つみたてNISA」と比較して「新NISA」は、非課税投資枠が格段と広がる。低コストのインデックスファンドは、主に「つみたてNISA」のつみたて対象商品として活用されることが多いが、「つみたてNISA」の非課税投資枠は1年間で40万円(上限800万円)だが、「新NISA」では年120万円(上限1800万円)に広がる。この大きく拡大する投資枠の受け皿になり得たら、非常に大きな残高に成長する期待がある。

 今回、「Tracers」が設定したファンドが「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」を対象としたインデックスファンドであるということにも、「新NISA」対応の意識がうかがえる。現在のところ、つみたて投資の主力に位置付けられているのは「S&P500」を対象としたインデックスファンドで、そのために信託報酬率も最も低く設定されている。これは、2018年1月に「つみたてNISA」が始まって以来、米国株式主導に大きな値上がり相場が続いてきたという背景があってのことだ。特に、2020年3月に「コロナ・ショック」で世界の株価が急落した後の出直り相場においては、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の進展を材料に、米国のIT株式を中心として相場が大きな盛り上がりをみせた。米国株式の代表的な株価指数である「S&P500」が大きく値上がりした。目の前で大きく値上がりする「S&P500」の成長に期待したい気持ちがつみたて投資の対象に選ばせたといえるだろう。

 しかし、「DX」関連人気が一巡し、「コロナ・ショック」対応で大幅に引き下げられた世界の金利が正常化に向かっている今、そして、今後の展開を考えると米国だけに集中した投資にはリスクがあることも意識される。実際に、米国ではIT企業等を主要な顧客として抱えていたシリコンバレー銀行が経営破たんに追い込まれた。2020年3月以降に大幅に値上がりした株価についても個別銘柄をみると、その後、大きく値下がりした銘柄もある。そして、投資の基本が「分散投資」にあることを考えれば、10年、20年という長期の投資の受け皿としては、米国一国ではなく、先進国や新興国など幅広く投資し、全世界の株式市場の動向を表すような「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」に連動するようなファンドが選択されやすいと考えられる。

 さて、この信託報酬率「年0.05775%(税抜き0.0525%)」という水準に、追随する運用会社は現れるのだろうか? 「インデックスファンドの信託報酬率は低い方が望ましい」ということは事実であり、現在の信託報酬率よりも半分程度に引き下げられた信託報酬率を評価して、「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」を購入するという動きは一定程度出るだろう。ただ、2020年3月に設定された「野村 スリーゼロ先進国株式投信」は、約10年間の期間限定とはいえ、「信託報酬率ゼロ%」で販売されたにもかかわらず、約3年間を経過して残高は約82億円という水準だ。野村アセットマネジメントに続いて「信託報酬率(期間限定)ゼロ%」の商品を設定するところはなかった。

 「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」は、信託報酬率が異常に低いため、ファンドとして収益が黒字化するには数千億円以上という大きな残高が必要になる。その期待が持てるからこそ、新規ファンドとして設定されることになったのだろうが、果たして、それが実現するのかどうかはわからない。設定後に、一定水準以上の人気が得られないようであれば、この水準で信託報酬率を揃えてくる運用会社は現れないということも考えられる。同ファンドの残高の行方や他社の動向など、今後の推移を注目したい。(グラフは、「Tracers」シリーズのパフォーマンス推移)