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21年度はマイナス5.44%のヘッジ外債、リスクコントロール型ファンドで安定運用ニーズは代替可能か?

2022/04/01 13:45

 米国が金融緩和政策を転換したことで、債券運用が非常に厳しい結果になっている。国内公募投信のパフォーマンスの推移を表すモーニングスターインデックスの「国際債券・グローバル・除く日本・為替ヘッジあり)」は、3月31日時点でマイナス5.44%となっており、期間収益で評価される金融機関の決算に大きなマイナス要因になってしまった。前年度が2.19%のプラスとなり金融機関の運用収益上乗せに貢献しただけに、単年度で決算評価をすると、今年度の大きなマイナス転落が痛手に感じられる金融機関は少なくないだろう。債券運用については、歴史的なインフレ(物価上昇)局面にあることを考えれば、引き続き価格下落(金利上昇)圧力がかかる。安定運用を実現するための運用戦略について、バランス型ファンドの活用も含めて考えてみた。

 2021年度の債券運用の結果は、モーニングスターインデックスで評価すると、3月31日現在で「国内債券・中長期債」がマイナス1.29%、ヘッジ外債である「国際債券・グローバル除く日本・為替ヘッジあり」が前年度末比マイナス5.44%と非常に厳しい結果になった。2022年になって米国の長期金利が上昇し、米FRBが3月15−16日の政策決定会合で利上げを決定したことなどによって、米国の金利が上昇(債券価格は下落)した影響を直接受けた。一方、為替ヘッジをしない外債である「国際債券・グローバル除く日本・為替ヘッジなし」は3月9日までは前年度末比マイナス1.80%だったが、その後に進んだ急速な円安ドル高によって3月31日現在ではプラス2.41%になっている。

 国内外の債券での運用は、定期的な利息収入の獲得と償還時の額面償還という安全弁によって安定的な資産運用には不可欠なツールとして位置づけられてきた。しかも、不景気にあえぐ経済では、金融緩和政策によって株価に先駆けて債券価格が上昇するという逆相関の動きも期待され、株式投資の価格変動リスクを緩和する緩衝材としても活用されてきた。しかし、昨今の先進国では政策金利はゼロ%に引き下げられ、市場金利がマイナスになるほどの超低金利環境となった。一段の金利低下(債券価格の上昇)が期待しづらくなり、先進国の国債を使った運用の限界が言われるようになっていた。

 たとえば、「国内債券・中長期債」の年間リターンは2020年度もマイナス0.45%で2年連続のマイナスリターンになり、投資先としての魅力はほとんどなくなっている。したがって、日本国内と比較して利回りの水準が高い米国債券(米ドル建て債券)に投資して為替ヘッジをつける「ヘッジ外債」の活用が活発化。「国際債券・グローバル除く日本・為替ヘッジあり」は、2020年度はプラス2.19%のリターンを稼ぎ出していた。ところが、その頼みの綱であった「ヘッジ外債」も米国の利上げによって、パフォーマンスの急速な悪化に直面している。しかも、米国は今年実施予定の政策決定会合(5・6・7・9・11・12月の6回)のたびに政策金利を引き下げる見通しであり、かつ、インフレに状況によっては、「0.25%」ではなく「0.50%」の利上げもためらわないという。債券の投資家にとっては強い逆風の市場環境になっている。

 このような債券運用の逆風下で安定運用のツールとして期待されるのがバランスファンドだ。価格変動の動きが異なる資産に分散投資し、先進国の国債並みのリスク(価格変動率)水準で、安定的な収益をめざすファンドが提供されている。ただ、単純に資産分散をするだけでは、昨今のような「リスクオン」「リスクオフ」で、ほとんどの資産が一方向に動くようなリスクに対応できないという点に対応できなくなってきた。市場環境の変化に応じて柔軟に配分比率を変更する運用が取り入れられるようになっている。一定水準のリスクに抑えた運用を行うことから「リスクコントロール型」とも呼ばれ、機関投資家の間でいち早く採用が始まった。昨今では、「円奏会(東京海上・円資産バランスファンド)」、「投資のソムリエ」など公募ファンドにも同様の運用手法が取り入れられ、安定運用ニーズのある投資家に広く活用されている。

 ただ、このようなリスクコントロール型のバランスファンドでも、昨今の運用環境での成績は厳しいものになっている。モーニングスターのバランスファンドの分類で、もっとも低いリスクをとっている「安定」は、22年2月末時点でカテゴリーの3年(年率)リスクが4.17%と、「国際債券・グローバル・除く日本・為替ヘッジあり」の4.12%、同為替ヘッジなしの4.96%とほぼ同じリスク水準にある。「安定」に分類されるリスクコントロール型のバランスファンドのパフォーマンスを、2020年度と21年度で比較してみた。その結果、リスクコントロール型のバランスファンドであっても21年度のような環境では年間リターンでプラスの成績をあげることができなかったことが分かる。具体的には、「円奏会(東京海上・円資産バランスファンド・1年決算型)」、「投資のソムリエ<DC年金>リスク抑制型」、「マルチアセット・ストラテジーファンド(愛称:なごみの杜)」の3ファンドをみてみたが、21年度は3ファンドとも3月31日時点で1年トータルリターンがマイナスの成績だった。「マルチアセット・ストラテジーファンド(愛称:なごみの杜)」は、20年度に続いて2年連続のマイナスリターンだ。

 一方、20年度は「円奏会」だけが「国際債券・グローバル除く日本・為替ヘッジあり」を上回る成績を残した。21年度は、「国際債券・グローバル除く日本・為替ヘッジあり」が大きく落ち込んだために、3ファンドともそれを上回る成績にはなった。ただ、「国際債券・グローバル除く日本・為替ヘッジなし」と比較すると、3ファンドとも2年度続けて全敗している。リスクコントロール型のバランスファンドは、通常のバランスファンドよりも、機動的に資産配分比率を変更するという手間をかけた運用をするだけに、運用コストも高くなりがちだ。取り上げた3ファンドは、信託報酬が年1%を下回っているが、年0.15%〜0.20%でも国際債券のインデックスファンドは多数存在するため、比較すると高い。投資家の希望は、運用の安定とともに、前年比プラスの運用成果だろう。リスクコントロール型のバランスファンドは、顧客ニーズに真正面から向き合った意欲的な商品であるだけに、運用にもう一段の頑張りを期待したいところだ。

 このように現実のファンドの運用結果を検証すると、リスクを抑えて安定的な運用成績を継続的に獲得する運用は非常に困難であることがわかる。ただ、21年度については、年末まで「インフレは一時的」と言い続けてきたFRBが12月になって豹変し、突然インフレに対する強い懸念を表明した。FRBによる情報発信に振り回されたことによって、21年12月以降に大きく崩れたということもできる。債券運用者にとっては不幸な経緯だった。今後は、FRBの情報発信も、より慎重なものになってくると期待される。

また、足元で年2.5%程度にまで高まってきた金利水準は、これからエントリーする投資家にとっては、それなりに魅力的な水準になってきている。金融政策の正常化にともなって、安定的な運用資産としての債券の復活も期待できよう。依然として、ウクライナ戦争という不透明要因が払しょくできないため、安心して投資できるような環境とは言い難いが、21年度の年度末に向けて大きく下落しただけに、22年度のパフォーマンスには期待を持てるともいえる。長期間にわたって、安定運用ニーズに応えてきた国際債券ファンドも新たな投資対象として見直しておきたい。(グラフは、先進国債券ファンドとリスクコントロール型ファンドの年度別パフォーマンス推移)