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転換点迎える日本株、経営は株主本位へ――低PBR株の「宝の山」

2023/4/17

 東証はこのほど、プライムとスタンダードに上場するPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対し、株価水準の引き上げへ向けた具体策の開示を求めた。取引所が主導する企業価値向上への取り組みは、長年割安に放置されてきた日本株のターニングポイントになる可能性がある。「投資の神様」として知られるウォーレン・バフェット氏が、このタイミングで強気のメッセージを発したことも決して偶然ではないだろう。

動く東証、バフェット氏でなくとも食指

 PBRが解散価値に相当する1倍を割り込む銘柄は、4月14日時点で東証プライムの約49%に上る。株価の低迷するこうした企業に対し、東証は改善策の開示を求めた。PBRを高めるためには、資本効率を意味するROE(株主資本利益率)の底上げが欠かせない。そのため、日本の経営者には、貯め込んだ儲けを株主還元の形で放出する圧力がこれまでになく高まっている。

 実際、最近では大日本印刷<7912>が発行済み株式数の15%を超える4,000万株(金額のリミットは1,000億円)の自社株買いを発表。シチズン時計<7762>も、2月に大規模な自社株買いを打ち出した。大日印には、アクティビスト(物言う株主)のエリオット・マネジメントが資本参加している。

 米国株のPBRが4倍程度。これに対し、プライム全体でも1倍強にとどまる日本の株式市場は、外国人にとっていかに魅力が薄かったかということを端的にあらわす。しかし、株主本位の経営スタイルが本格的に広がるのであれば、そこはたちまち宝の山と化すだろう。バフェット氏やアクティビストでなくとも、指をくわえて見ている場合ではない。

図表1:東証プライムの約半分がPBR1倍割れ...

図表1:東証プライムの約半分がPBR1倍割れ...

※4月14日時点
出所:ウエルスアドバイザー作成

 こうした観点から有力銘柄を探ると、PBRが1倍を下回り、潤沢な現金や利益剰余金を持つ高財務企業が浮上してくる。さらに、事業面でもシェアや技術、参入障壁により優位性を持っていればなお都合が良い。

天然ガスのK&Oエナジーは次世代太陽電池も注目、「益回り」で住友鉱

 K&Oエナジーグループ<1663>は千葉県で天然ガスの開発から供給までを一貫して手掛ける、数少ない国産資源サプライヤーだ。エネルギー自給率に乏しい日本では貴重な存在なだけに、資本効率を重視した経営がスタートすればPBR 0.7倍台の時価は極めて割安と判断されるだろう。

 さらに同社は、天然ガスの副産物である「かん水」に含まれるヨウ素の生産量でも、国内トップだ。ヨウ素は工業品や医療品などに広く用いられるほか、政府が国策として普及を推し進めようとしている、フィルムタイプの次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の材料である点も見逃せない。

図表2:K&Oエナジー(週刊足)

図表2:K&Oエナジー(週刊足)

出所:ウエルスアドバイザー作成

 バフェット流の銘柄選びとして、「益回り」に着目する見方もある。益回りは1株利益を株価で割って算出するPERの逆数だ。益回りが高いほど割安と考えらえるが、バフェット氏が保有する総合商社はまさに同指標の観点から「お買い得」だった。

 益回りの高い低PBR企業の1つが、住友金属鉱山<5713>。プライム市場の平均である約7%に対し、同社株は11%。資源高で利益が特需的に膨らんだ22年3月期→23年3月期(見込み)の推移を除けば、配当額も継続的に引き上げている。

 同社は商社株とも通じる部分があり、銅、ニッケルなどの権益は長期での安定的なキャッシュフローを生み出す。また、鉱山開発に加え、金属の精錬や材料生産でもユニークな事業モデルを持ち、2次電池材料のニッケルでは、原料から材料生産まで一貫したサプライチェーンを構築している。

歪みの象徴、どうなる放送局?

 そして、放送局も注目のセクターだ。

 民放キー局のPBR(いずれも4月14日時点)は、フジ・メディア・ホールディングス<4676>、TBSホールディングス<9401>、日本テレビホールディングス<9404>、テレビ朝日ホールディングス<9409>が0.4倍前後にとどまり、比較的高いテレビ東京ホールディングス<9413>でも0.7倍台。一方で、保有する現金や資産は多く、日本株の歪みを象徴するような存在ともいえる。

 しかし、上場企業である以上は、株主本位への転換圧力から免れない。もしくは、これを機にMBO(経営陣による自社株買収)によって非上場化する選択肢もちらつく。いずれにしても、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の台頭で、昔ながらの放送事業の先行きは厳しい中で、新たな分野への投資をする余地も大きい。

図表3:テレビ 4大キー局の財務

銘柄(コード) 自己資本
比率
利益剰余金 不動産
含み益
PBR 時価総額
フジHD(4676) 59.7% 3,632億円 671億円 0.32倍 2,800億円
TBSHD(9401) 72.3% 3,578億円 2,228億円 0.45倍 3,332億円
日テレHD(9404) 79.7% 6,815億円 274億円 0.35倍 3,033億円
テレビ朝日H(9409) 78.6% 2,614億円 48億円 0.39倍 1,635億円

※財務は22.3期末、不動産含み益は有報記載の時価と簿価の差から算出、PBRと時価総額は23年4/14

 キー局の中でも特に自己資本比率が80%超と高いのが日本テレビホールディングス<9404>とテレビ朝日ホールディングス<9409>。一方、TBSホールディングス<9401>は、含み益(賃貸等不動産関係の時価-簿価)が22年3月期末時点で2,228億円に上り、その規模は現在の時価総額の3分の2に相当する。

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