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波乱の中の日本株、日経平均3万円への道は?(1)日銀新体制へ移行、企業価値向上で「黄金の国ジパング」にも!?

2023/3/27

 強調相場に入ったかに見られた株式市場は、突如浮上した米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破たんに端を発する世界的な金融システム不安を受けて再び上値の重い動きを余儀なくされている。ただ、今回の問題はリーマン・ショック当時とは異なり、金融危機の連鎖破綻に発展する可能性は大きくない。一方、日本企業は資本効率改善への取り組みに本腰を入れ始めており、海外勢の日本株に対する見方が変わりつつある点は見逃せない。注目される今後のイベントや注目テーマを確認しつつ、日経平均株価3万円回復への道を見極めたい。

異次元緩和の出口見据え「市場との対話」へ

 SVBの破たんについては、スタートアップを主要顧客としていた特殊性からあくまでミクロな事象と捉えることができる。ただ、FRB(米連邦準備制度理事会)による急激な利上げが招いた債券運用での損失という問題は、邦銀も含めて共通するところだ。実際、米国ではSVBにとどまらず、中堅のシグネチャー・バンクも倒産に追い込まれ、さらには欧州のクレディ・スイスの経営不安にも波及した。

 しかし、米金融当局は預金の全額補償などの素早い対策を講じ、クレディ・スイスに関しても、同じスイスのUBSによる救済買収という形で一応の決着をみた。また、大手の銀行はリーマン・ショックを経て強固な経営体質への変貌を遂げているため、システマチックな金融危機には結び付きにくいと考えられる。反射的なショック症状で急落した日本株だが、いまのところは対岸の火事に過ぎない。

 一方、新年度の日本株相場を取り巻く環境に大きな影響を及ぼす可能性がある内部要素の1つが、4月9日にスタートする日銀の新体制だ。現・黒田東彦総裁の下で10年以上続けてきた異次元緩和は、債券市場を歪め、輸入物価の高騰も相まって本格的な岐路に差し掛かっている。黒田氏に代わって総裁に就任する植田和男元日銀審議委員や、新任の副総裁らによる金融政策のかじ取りは市場の最大の注目点と言える。

※衆議院HPから

 拙速な政策の転換には慎重とみられる植田氏だが、債券市場では10年債利回り(長期金利)が一時、日銀の許容変動幅の上限に当たる0.5%まで上昇した。その後はSVBの問題の余波で金利が急低下したものの、マーケットでは緩和修正が依然として意識されている。本丸のYCC(=イールドカーブコントロール、長短金利操作)撤廃については来年以降というコンセンサスが形成されつつあるものの、米国の例からもわかるように市場心理は移ろいやすい。

 もっとも、日銀の金融政策をめぐる不透明感は、新体制の運転開始とともに解消されていく可能性がある。植田氏はきめ細かい「市場との対話」を通じ、巡航速度での金融政策の正常化を市場に浸透させられるかが焦点となる。新体制での初会合は4月27、28日に行われ、2回目は6月15、16日の予定。一部では、その際にYCCの操作対象を現在の10年債から5年債や2年債に短期化することなどが予想されている。

「PBR1倍割れ銘柄撲滅」に集まる海外投資家の熱視線

 一方、日本株にとってのもう1つの注目材料が、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対して東証が求める改善計画だ。今年1月に行われた「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」で明るみに出て以来、バリュー(割安)株物色が活気付いた。しかし、3月10日時点でもPBR1倍割れ銘柄はまだ東証プライムの半分程度を占めている。

 株価を1株当たりの純資産で割ったPBRの向上には、収益力の底上げや業績成長のビジョンだけではなく、資本効率の改善が重要となる。つまり、その指標であるROE(株主資本利益率=純利益/自己資本)を高めていく必要がある(PBRはPER<株価収益率>とROEの積に等しい)。このため、ROEの分母に当たる自己資本を、自社株買いなどの株主還元により圧縮する動きも加速している。

 こうした取り組みが一段と広がりを見せれば、日本株がバブル崩壊後の失われた30年から本当の意味で脱却する流れにつながるだろう。実際、ゴールドマン・サックス証券では、アジアと欧州の投資家との意見交換に基づく最近の顧客向けメモで、「(日本企業の)過去最高に達した自社株買い、増配、企業再編策などに関する最近の報道は、大きなポジティブ・サプライズとなっている」と報告した。

 もちろん、これまでの先回りの買いによって、日本のバリュー株の割安修正の余地は従来よりも小さくなっているはずだ。ただ、企業価値向上のためのダイナミックな施策が今後相次いで打ち出されるのであれば、その限りではない。海外勢にとって、日本が「黄金の国」に映るようになるかもしれない。

プライム昇格企業増加へ、有力候補に注目

 一方、東証グロース市場からプライム市場へ昇格する銘柄も増えそうだ。昨年は第1号のメルカリ<4385>を皮切りに4銘柄がプライムに市場変更した。今年はすでにアクシージア<4936>、アンビスホールディングス<7071>、そーせいグループ<4565>の3銘柄がプライムに移行した。市場再編によりマザーズ市場が廃止されたこともあり、ブランド価値の高いプライムを目指す動きが今後も加速する可能性が高い。

 既に市場区分変更の申請を開示しているANYCOLOR<=エニカラー、5032>や、その準備を進めているプラスアルファ・コンサルティング<=Pアルファ、4071>をはじめ、有力候補に挙がっている銘柄を押さえておきたい。独立社外取締役の比率や流通株式時価総額といった、プライム上場の各基準を満たすための取り組みにも注目が集まる。

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