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NISAの恒久化がもたらす「超長期投資の時代」、運用会社の存在意義をかけた優れた運用商品の提供に期待

 「資産所得倍増プラン」の目玉政策の1つとして「NISA(少額投資非課税制度)」の恒久化が打ち出された。これまで、「5年(一般NISA)」や「20年(つみたてNISA)」という有限の非課税制度だった「NISA」が、何十年にもわたって収益非課税で資産を作っていくことができるのであれば、「投資」によって資産を形成しようと考える人が増えると期待される。長らく唱えられてきた「貯蓄から投資へ」というスローガンが、いよいよ本格的に国民的な運動として定着するチャンスだ。この動きを定着させ、投資市場を大きく発展させるためには、ファンド商品として超長期の運用に耐えられる商品を提供する努力が不可欠だ。

 現在、運用期間が40年以上あるファンドは国内に4本しかない。「大型株ファンド」、「MHAM 株式オープン」、「積立て株式ファンド『愛称:MIP【Monthly Investment Plan】』」、「キャピタルオープン」だ。いずれも国内株式ファンドであり、最も古い「大型株ファンド」は1961年12月の設定だ。約60年間にわたる運用実績がある。その次に古いのが「積立て株式ファンド(MIP)」で、これは日経平均株価(日経225)に連動するインデックスファンドで、積立専用のファンドになっている。

 運用期間が30年以上あるファンドは、38本。うち、「ミリオン」という名前のついた「給与天引き方式の積立投資専用ファンド」が17本を占める。「ミリオン」には、国内株式以外に、債券型やバランス型もある。設定されたのは1987年だ。この頃には、給与天引きで株式ファンドを積立投資するという発想があったことがわかる。この1987年(昭和62年)という年は、のちに「バブル景気」といわれる好景気がスタートした年とされている。

 1987年2月に日本電信電話(NTT)が東証に上場した。売出価格119.7万円に対し、上場から2カ月足らずの4月には318万円の高値を付けた。2カ月間で株価(投資資金)が2倍以上になったインパクトは大きく、その後2年間でNTTの株主は160万人を超えるほどに増え、その多くは新規の株主(投資家)だった。このようなNTT株式の新規上場に伴う株式市場の熱狂は、10月に「ブラックマンデー」という米国株価の急落によって冷水を浴びたものの、すぐに切り返し、1989年12月末の高値である日経平均株価3万8,915円に向かって一直線に上昇していった。

 そして、運用期間が20年以上あるファンドは456本になる。この頃から、現在に続くようにファンドの品揃えの多様化が進む。国際株式、国際債券を対象としたファンドが揃い、バランス型ファンドも「株式30型」、「株式50型」、「株式70型」などリスク水準の異なるファンドがシリーズとして出てきた。さらに、10年も経過すると、コストの引き下げ競争が本格化し、「ネット専用ファンド」として販売手数料なし(ノーロード型)ファンドの設定が活発になってくる。現在に通じるファンド群が形成されてから、20年程度しか歳月が経っていないというのが、日本の現実だ。

 「NISA」が恒久化された背景には、老後に困らないだけの資産を残しておくために、30年、40年間という超長期投資というニーズに応えようという考えがある。ところが、実際には、現存するファンドで30年以上の運用実績のあるファンドはわずか38本しかない。日本にファンドの提供会社(メーカー)である投資信託会社が登場したのは1960年のことだ。そして、1960年12月に設定された第1号ファンドから60年以上が経過し、その後に様々なファンドが追加型ファンド(オープンエンドで永続的に運用が可能)として設定・運用されてきたが、大半のファンドは、商品としての魅力を失い、残高が激減し、償還(運用を終了し信託財産を清算)されていった。

 「NISA」の恒久化に伴って、超長期で投資することができるファンドの開発が急務だ。もちろん、インデックスファンドは、超長期の運用対象商品として残るだろう。既に、純資産残高が1兆5,000億円を超えている「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」などは今後30年、40年という超長期に運用が続くファンドになると考えられる。ただし、その信託報酬は税込みで年0.10%以下などであり、運用に関係する機関の実入りは少ない。アクティブファンドであれば、より高い報酬が得られて、運用業界の成長の押し上げにも寄与する。

 たとえば、「One 国内株オープン」を過去20年間にわたって毎月1万円を積立投資した場合、2022年11月末現在の評価額は約736万円になる(基準価額を使って毎月末に投資)。積立投資元本の240万円の約3倍だ。同期間を日経平均株価のインデックスファンドである「(夢楽章) 日経平均オープン」を同じように積立投資をした場合の評価額は約548万円。アクティブファンドである「One 国内株オープン」はインデックスファンドを圧倒的にアウトパフォームしている。信託報酬はインデックスファンドが税込み年0.55%に対し、「One 国内株オープン」は年1.76%だ。これだけ大きなパフォーマンスの違いがあるのであれば、信託報酬の多寡には目をつぶって、「あえてアクティブファンドを選ぶ」という動機になるだろう。

図表:国内株式ファンドを使った20年間の積立投資評価額の推移

国内株式ファンドを使った20年間の積立投資評価額の推移

出所:モーニングスター作成

 投資家がアクティブファンドの優劣を判断するには、そのファンドの長期の運用実績しか手掛かりにならない。日本では、インデックスファンドの歴史もようやく20年程度でしかない。それらと比較して長期にわたって優れた運用実績を残し、残高が数千億円になるほど巨大化したファンドは希少だ。今後、運用会社であれば各社に少なくとも1本は、超長期投資に資する代表的なファンドがあると胸を張れるような状態になることが望ましい。そのような運用会社の存続意義が問われるような運用商品の開発もまた、これから本格化していくといえよう。NISAの恒久化とともに始まる運用会社の運用力を磨く競争にも注目していきたい。

(モーニングスター)

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