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「冷戦時代に匹敵する地政学リスク」を分析して投資チャンスに=アムンディが見通す年後半の地政学動向
2024/07/18 17:27
アムンディ・インベストメント・インスティチュート地政学ヘッドのアナ・ローゼンバーグ氏は7月18日、オンラインで講演し、「2024年後半における地政学動向の見通し」について語った。ローゼンバーグ氏は、「現在の地政学リスクは、1950年〜90年の『冷戦時代』に匹敵するリスクレベル」と分析し、「より複雑で、より重大なリスクを内包するものの、リスクのあるところにはチャンスもある。投資のチャンスを活かす対応が重要」と語っていた。
アムンディでは、地政学的リスクに関して独自に開発した「地政学(ジオポリティカル)リスク・トラッカー」というシステムを使って計測し、2国間の緊張度合いなどを時系列でウオッチしている。そのデータによると「ロシアによるウクライナ侵攻、ハマスのイスラエル攻撃以降、より多くの国がリスクの増大に寄与している。これは、『脱グローバル化』でも『2極化』でもなく各国が自国の利益を独自に追求しようとしているためで、対立が多いほど、解決は難しくなる。そして、保護主義、輸出規制、制裁など経済摩擦の拡大は、熱い戦争のリスクを高め、気候変動への対応、また、AI(人工知能)の間違った予測なども新たなリスクとして上積みされている」として、「2020年代は地政学リスクが高まる可能性が高い」と見通す。
そして、現在の地政学的ホットスポットとして、火薬庫といわれてきた「中東」をあげ、「イスラエルとの紛争地域は、ガザのハマスから、レバノンのヒズボラ、そして、イランへとエスカレーションする可能性があり、その際、米国とイランがどこまで直接関与するかということによって、市場への影響が出てくる」と注視している。
また、「ロシア、ウクライナ紛争」については、「米新政権発足を前に、ロシアは可能な限り領土拡大を狙う動きを強める可能性がある。トランプ氏が大統領に就任すれば、停戦を働きかける可能性もあり、その際には、その時に占領地域が新しい国境になるかもしれないからだ。一方、2025年1月20日の米新政権発足までに停戦が実現せず、2025年も戦闘が継続するようなことになれば、欧米から武器等の支援を受けたウクライナの戦力が大幅に向上する可能性がある」とした。
米国と中国の関係は「着実に悪化継続の可能性が高い」という見通しだ。ただ、その関係悪化は十分にコントロールされたもので不測の事態を招くようなものではないとみている。そして、中国とEUの間では、中国のグリーン産業はEUとの結びつきが強まっており、EUは中国との連携強化に動くだろうとした。
そして、北朝鮮のリスクは米国の大統領選を前にリスクが増大するとみている。北朝鮮は、選挙を前にすると米国との間で交渉力が増大すると考えているようで、ハマスがガザ地区で行った攻撃のようなことが起こるリスクもあると注視している。
一方、米国大統領選挙は、バイデン氏が勝った場合、現在の流れが継続し、中東地域での対立が激化する可能性があるとした。そして、バイデン氏の年齢の問題から、任期途中でカマラ・ハリス副大統領への大統領権限の委譲が行われる可能性があるとみている。トランプ氏が勝った場合は、各国と貿易関係で関税の変化が大きな議論の対象になるだろうとみている。そして、ウクライナ情勢については、思い切った動きに出る可能性があるとした。また、欧州の議会選挙で極右勢力が議席を伸ばしているものの、これらは意見対立が多くあって「ゲームチェンジャーにはなり得ない。わずかに進むのは、移民問題とグリーンアジェンダの遅延ということだろう」という見方を示した。
地政学的リスクの増大は、「より複雑で、より高く、より大きなリスク」につながるとし、市場へは「コスト上昇」として響き、様々な影響につながるだろうとした。また、リスクの高まりとともに、チャンスもあるとして、地政学的リスクの勝者として「影響力の勝者(サウジアラビア、ブラジル、インド、日本、トルコ、イラン、シリア)」、「多様化・分散化の勝者(エネルギーやレアアースなど魅力的な天然資源を有している国々、あるいは、地理的にサプライチェーンの多様化を可能にする戦略的な位置を占める国々)」、そして、「防衛政策上の勝者(フィリピン、日本、オーストラリア、韓国、台湾、シンガポール、インド)」などが考えられ、そこに投資のチャンスがあると語っていた。(イメージ写真提供:123RF)